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横浜地方裁判所 平成5年(行ウ)50号 判決 1996年11月25日

神奈川県足柄上郡松田町松田庶子一五一三番地一

原告

有限会社平林

右代表者代表取締役

平林憲夫

右訴訟代理人弁護士

金谷鞆弘

神頭正光

神奈川県小田原市萩窪四四〇番地

被告

小田原税務署長 掛川安雄

右指定代理人

竹村彰

渡辺進

清住碩量

菅野勝雄

中澤彰

桑原秀年

堀久司

高橋博之

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し、平成四年九月二九日付けでした酒類販売業免許の拒否処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、食料品、日用雑貨、衣料品、酒類等の販売等を業とする原告が、被告に対し、酒類販売業免許の申請を行ったところ、被告が、原告の申請販売場の至近距離に既存の酒類販売業者の販売場があることを理由に拒否処分をしたため、原告が、酒税法九条一項の酒類販売業免許制度、需給の調整の要件を定める同法一〇条一一号の規定及びこれに基づく距離制限は、職業選択の自由を保障する憲法二二条一項に違反すること、被告が既存販売業者に付与した免許は無効であり、原告の右申請は酒税法一〇条一一号に該当しないことを理由に、右拒否処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、被告に対し、平成三年九月三〇日、酒税法九条一項に基づき、次のとおり酒類販売業免許(以下「酒販免許」という。)の申請(以下「本件申請」という。)をした。

販売場の所在地 神奈川県足柄上郡松田町松田庶子字泉屋敷一五一三番一

免許の種類 一般酒類小売業免許

販売する酒類の範囲及び販売方法 全酒類の小売販売

屋号 ローソン新松田店(コンビニエンスストア)

2  被告は、原告の販売場から約四六メートルの距離に既存の酒販免許取得業者である横山幸夫(以下「横山」という。)の店舗(以下「横山商店」という。)が存するとして、原告に対し、平成四年九月二九日付けで、本件申請は酒税法一〇条一一号に該当するとして酒販免許の拒否処分をし(以下「本件処分」という。)、そのころその旨原告に通知した。

3  原告は、本件処分について、平成四年一一月六日、東京国税局長に対し審査請求中である。

二  争点

本件の争点は、酒販免許制度を定める酒税法九条一項及びこれを前提に免許の拒否事由を定める酒税法一〇条一一号の規定が職業選択の自由を保障する憲法二二条一項に違反するかどうか、また、被告が本件申請が酒税法一〇条一一号に該当するとしてした本件処分は適法かどうかである。

これらについての当事者双方の主張は以下のとおりである。

1  酒販免許制度の合憲性について

(原告)

(一) 酒販免許制度の必要性及び合理性

憲法二二条一項は、「何人も公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有する」旨規定するが、私有財産制の下で右の自由は最大限に尊重されるべきであり、公共の福祉を理由とする制限は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的なものでなければならない。酒税法は、昭和一三年に酒税の適正、確実な賦課徴収という国家の財政目的のために制定されたものであるが、そもそも、税収確保という財政目的のため職業選択の自由に対し許可制という強度の制約を課すことは許されない。

また、昭和一三年の酒税法制定当時は、酒類販売業者(以下「酒販業者」という。)の濫立とこれに伴う過当競争の結果、酒類製造業者の酒販業者に対する売掛代金債権の回収が困難になるという状況が存したことから、その回収を確実にし、消費者への酒税の円滑な転嫁を図る必要があったといえる。しかし、酒税と同様に小売業者を介して税負担を消費者に転嫁する制度として消費税が導入されたこと、酒類の税収に占める割合が低下傾向を示し、昭和四四年には一〇パーセントを割り、平成元年以降は三パーセント台に落ち込んでいること等、立法当時からの社会状況の変化に鑑みれば、酒販免許制度を存続させる必要性、合理性はない。

なお、被告は、酒販免許制度に、ほ脱防止の観点からの必要性、合理性が認められるとするが、酒税のほ脱防止は、他の法規制等によりその目的を達しうるのであり、酒販免許制度によるべきではない。

また、被告は、酒販免許制度には、致酔飲料である酒類の秩序ある供給を可能にするという付随的効果があるとも主張するが、今日、消費者は全国のどこにおいても、容易に粗悪品でない酒類の入手が可能であるから、酒販免許制度にそのような効果は認められない。

したがって、酒販免許制度を定める酒税法九条一項及びこれを前提に免許拒否事由を定める同法一〇条一一号の規定は、その必要性、合理性を欠き、憲法二二条一項に違反する。

(二) 酒税法一〇条一一号による規制の合理性

仮に、酒販免許制度を定める酒税法九条一項及び同法一〇条一一号の規定が合憲であるとしても、以下のように、同法一〇条一一号の適用につき被告主張の距離制限を行うことは、憲法二二条一項に違反する。

(1) 昭和五五年ころから、コンビニエンスストアの店舗数が増加し、平成五年現在、全国で四万三五一〇店のうち、酒販免許を取得している店舗数は一万三五七五店に及んでいる。また、平成元年ころから、酒類のディスカウント店が急増し、平成四年の酒販免許取得店数は、全国で約一三〇〇店で、平成五年度における酒類販売の業態別シェアは、コンビニエンスストアとともに各一二パーセントを占めており、今後も拡大が予測される。また、平成三年一月現在、全国のスーパーマーケット約一万三七〇〇店のうち、酒販免許取得店数は約二〇〇〇店で、その業態別シェアは約四パーセントである。

これらの店舗は、チェーン店方式による流通コストの削減と低価格化、営業時間の長期化等、従来の酒販店とは異なる特色を有し、近時の自家用自動車の普及と相俟って、消費者は、最寄りの酒販店で酒類を購入するより、遠方であっても、価格が低廉で酒類以外の生活必需品の品揃えも豊富なこれらの店舗に購入に赴くことが常態化している。このように、酒類販売業の業態の多様化に伴い消費者の動向が変化した状況において、酒類の需給の均衡は、単なる距離制限により図りうるものではなく、酒販業者が自由かつ公正な競争の下で、その業態に応じた独自の営業努力を行うことにより実現しうるものである。

現に小田原市西部では、六箇所の地域で、半径五〇メートルから一〇〇メートルの至近距離内に、二又は三の酒販店があり、それらは、コンビニエンスストア、宅配サービスを行う小売店などと各店舗の特色を生かした営業努力により三〇年以上にわたり共存を続けており、このことは、距離制限が、需給の均衡維持に不可欠のものとはいえないことを示すものである。

(2) また、被告主張のとおり、平成元年六月一〇日付け間酒三-二九五国税庁長官通達の別冊である酒類販売業免許等取扱要領(以下「免許取扱要領」という。)は、小売販売地域を三つに分け、そのうちA地域、B地域(本件はB地域に当たると被告は主張)について一〇〇メートルの距離基準を設けているが、店舗間のわずか一〇〇メートルの懸隔が消費者の動向に影響を及ぼすとは考えられないから、右基準により需給の調整を図りうるものではなく、また、右の一〇〇メートルという距離は、酒販店の偏在防止という観点からも意味がない。したがって、右距離基準には合理性がない。さらに、免許取扱要領は、前記小売販売地域の人口比率に応じた免許枠を設けて需給の調整を図っているから、これに加えて距離制限をする必要性は認められない。

(被告)

(一) 酒販免許制度の必要性及び合理性

(1) 酒販免許制度は酒税の賦課徴収という国家の財政目的のための規制であるから、右規制の当否は、国家財政、社会経済、国民の所得、生活実態等の全般にわたる専門的・技術的判断を要し、裁判所は、立法府の政策的判断を尊重せざるを得ず、規制の必要性・合理性についての立法府の判断が著しく不合理なものでない限り、これが憲法二二条一項に違反するということはできない。

(2) 酒販免許制度は、酒税の庫出課税制の下で酒販業者の経営の安定を図ることにより酒類製造業者の酒販業者に対する代金債権の回収を容易にし、もって、税負担を納税義務者である酒類製造業者から消費者へと円滑に転嫁し、酒税の安定的、効率的な確保を可能にするものである。

(3) 酒税の収入額は、昭和二六年度から消費税が導入される前年の昭和六三年度までの間、所得税、法人税に次ぐ第三位の地位を占め、昭和六三年度においては約二兆二〇〇〇億円に及び、平成元年度に消費税導入に伴う税収構造の変化により一時的に減少したものの、平成二年度以降再び二兆円近い額となり、以後も増加傾向を示している。

また、酒税は、景気や地価の動向による影響の大きい法人税や相続税に比し安定した税収をもたらし、平成四年度には、その税収額の三二パーセントが地方交付税交付金の財源に充てられる等、地方財政にも寄与しており、財政上、極めて重要な地位にある。

(4) 酒税の税率をみると、昭和五一年以降、ビール大瓶一本の販売代金に占める割合は四〇パーセント台を維持しており、他のアルコール類についても、一貫して高い割合を示している。酒販免許制度は、酒販業者の経営の安定化を通じてこのような高率の酒税の消費者への円滑な転嫁を図り、納税義務者である酒類製造業者の負担を軽減しようとするものであり、その必要性、合理性を認めうる。

(5) 前述のように、酒税は税率が極めて高く、そのほ脱による損失が高額に及ぶことから、国家財政に及ぼす影響が大きい上、ほ脱酒はその小売価格を低減し得るため、流通性が高く、ほ脱が多発すると、市場の混乱をきたし、酒税制度の崩壊を招くおそれがある。また、酒類は簿外製品の産出が比較的容易であり、酒類製造者のほ脱に荷担する販売業者があれば、酒税のほ脱は容易に行われ、しかもそれを認知することは困難である。そこで、酒税法は、記帳義務等を課すとともに、酒類製造業者のみならず酒販業者にも免許制度を採用し、酒税のほ脱に荷担する危険性が高い者が酒類の販売に関与することを防止し、その販売体制の健全化を図っており、その必要性、合理性を認めうる。

(6) また、酒販免許制度は、その付随的効果として、粗悪品の流通を未然に防止し、致酔飲料である酒類の販売秩序を保ち、飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒などの社会問題を防止することを通じて、社会秩序の維持、国民衛生の確保に寄与するなど社会的役割も大きい。

(7) なお、原告は、消費税の導入により、酒販免許制度を存続させる理由がなくなったと主張する。しかし、消費税は、課税対象が国内におけるほとんどの商品、サービスに及び、税率が一律に三パーセントとされ、納税義務者は、製造、卸売、小売等の各取引段階の事業者とされるものであり、この点において、課税対象が酒類に限られ、税率が極めて高く、酒類製造業者のみが納税義務者とされる酒税とは制度の内容を異にしているから、消費税の導入により、酒販免許制度を存続させる理由がなくなったとはいえない。

以上のとおり、酒販免許制度には、その必要性、合理性が認められ、立法当時から社会状況が変化したことを考慮に入れても、その必要性が失われたとはいえず、不合理であることが明白であるともいえないから、憲法二二条一項に違反するものではない。

(二) 酒税法一〇条一一号による規制の合理性

酒税法一〇条一一号は、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持するため酒販免許を与えることが不適当な場合には、これを与えないことができる旨規定し、その具体的な適用基準を定めた免許取扱要領は、人口密度に対応した小売販売地域の格付けに応じ、免許付与の対象となる販売場と既存販売場との距離制限を定めている。これは、特定の地域における酒類の需要量は、ほぼ一定していると考えられること、また、当該地域に酒販業者が濫立すると、過当競争が行われ、酒販業者の経営の悪化を来たし、ひいては酒類製造業者の販売代金の回収、酒税の消費者への転嫁が困難となることによるものである。このように、酒税法一〇条一一号が需給調整の規定を設け、免許取扱要領がその適用基準として距離制限を設けたことには、合理性が認められる。

また、免許取扱要領は、客観的な距離基準を設けた上で、当該小売販売地域における需給関係の実状により、右基準の定める距離を確保する必要がないと認められる場合には、これを二〇パーセント程度下回っても差し支えないとし、著しい人口の増加等がある場合には、右基準を適用しないこともできるとするなど、柔軟に対応することとしているから、これに合理性が認められることは明らかである。

2  酒税法一〇条一一号の該当性

(被告)

(一) 前述のように、酒税法一〇条一一号は、酒類の需給均衡を維持する必要上適当でない場合には、酒販免許を与えないことができるとしている。

(1) 右条項の解釈適用の指針を示した免許取扱要領は、税務署所管の各市区町村を一単位とする一般酒類の小売販売地域について三つの区分を設け、<1>東京都の特別区及び人口三〇万人以上の市若しくはこれらに準ずる市町村(可住地人口密度一キロ平方メートル当たり三〇〇〇人以上の市町村をいう。)又はこれらの一部の販売地域をA地域とし、<2>A地域以外の市又はこれに準ずる市町村(可住地人口密度一キロ平方メートル当たり一二〇〇人以上三〇〇〇人未満の町村をいう。)若しくはこれらの一部の販売地域をB地域とし、<3>A地域、B地域のいずれにも該当しない地域をC地域とする格付けを行った上、申請にかかる販売場と既存の一般酒類小売販売場との距離は、A地域及びB地域が概ね一〇〇メートル以上、C地域が概ね一五〇メートル以上存することを要するとしている。

(2) 原告申請の販売場(以下「本件販売場」という。)が存する松田町は、その可住地人口密度が一平方キロメートル当たり一三四八人であるから、前記小売販売地域の格付けのB地域に該当し、本件販売場と既存の一般酒類小売販売場との距離は概ね一〇〇メートル以上存することを要すべきところ、本件販売場から約四六メートルの距離に足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二ほか三筆所在の横山の販売場(横山商店)があって、前記距離基準に抵触し、原告に免許を付与した場合、酒類の需給の均衡を害し、酒税の確保に支障を来すおそれがあるから、酒税法一〇条一一号に該当する。

(3) 原告は、横山が酒販免許を申請した販売場(以下「横山の申請販売場」という。)の所在地は鉄道用地ないし県道の一部であって、販売場として使用し得ない土地であるから、横山への免許の付与は無効であり、本件販売場は距離基準に抵触しない旨主張する。なるほど、横山の申請販売場のうち、足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二の土地は、日本国有鉄道清算事業団(以下「国鉄清算事業団」という。)が所有し、登記簿上の地目は鉄道用地であるが、そうであるからといって、販売場を開設する余地が全くないとはいえず、また、同じく同所張間田下一三五九番三及び同所観音前三三九二番二の土地は、同様に登記簿上の地目が鉄道用地であり、また、それらの一部は、県道によって占められているが、その部分はごくわずかであって、販売場設置に支障はない。

なお、横山は、右販売場の一部に存在する同所観音前一一六二番五先、家屋番号一一六二番五の小野トミ子(以下「小野」という。)所有の建物を店舗用に賃借して使用しているが、右建物の敷地所有者と小野との間で、その使用権原につき争いがあるなどの事情は被告において了知しておらず、仮に争いがあるとしても、それだけで直ちに横山の「経営の基礎が薄弱」であるともいえない。

原告は、横山の申請販売場のうち、前記張間田下一二一五番二の土地が、横山に対する免許通知書上、特定されていないとも主張するが、右通知書の添付図面には、同所「1215-6の内」という表示が存するところ、同所一二一五番六の土地は、同所一二一五番二に合筆されているから、右表示は、同所一二一五番二を示すものにほかならず、したがって、申請販売場の特定に欠けるとはいえない。

(4) また、原告は、横山の販売場は、主に松田惣領字観音前に居住する住民が利用するのに対し、本件販売場は、同所河内、中丸、中町屋、沢尻に居住する住民が利用し、両者は需要者を異にするから、需給の均衡を害するおそれはない旨主張する。しかし、これは単なる推測にすぎず、東日本旅客鉄道松田駅裏口や小田急電鉄新松田駅出口から前記河内、中丸及び中町屋への経路は、本件販売場に至る途中で横山の販売場を経由するから、これらの地区の住民は、本件販売場のみならず、横山の販売場も利用すると予想される。よって、原告の主張は理由がない。

(原告)

(一) 横山に対する酒販免許の効力

(1) 横山の申請販売場のうち、足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二の土地は、横山の免許通知書の添付図面に該当する地番がない。右図面には、「1215-6の内」との表示があり、確かに同所一二一五番六の土地は、平成二年二月一五日、前記一二一五番二の土地に合筆されているが、右一二一五番六の土地は、右図面の「1215-6の内」とは全く異なる位置にあるから、横山の免許は、申請販売場の特定を欠くものである。

(2) 横山が免許を取得した前記一二一五番二ほか三筆の販売場は、無番地部分を除き、いずれも登記簿上の地目が鉄道用地であり、このうち、足柄上郡松田町松田惣領字観音前三三九二番二の土地は、現況が道路の一部となっているから、これらの土地で酒類販売業を営むことは不可能である。また、現在の横山商店の所在地は、現公図上、足柄上郡松田町松田惣領字観音前一一六二番九に当たる土地であり、右土地は、前記一二一五番二の土地、三三九二番二の土地とはかけ離れた位置にある。このように、被告が、販売場として使用し得ず、しかも横山商店の所在地とかけ離れた場所にある土地を販売場とする酒販免許を付与したことには重大な瑕疵がある。

(3) 横山は、横山商店の店舗を小野から賃借して使用しており、その敷地は、前記一一六二番九の土地であるが、これは国鉄清算事業団又は東海旅客鉄道株式会社(以下「東海旅客鉄道」という。)の所有に属し、小野はその占有権原を有せず、現在、東海旅客鉄道が小野にその明渡請求中である。よって、酒税法一〇条一〇号の「経営の基礎が薄弱」な場合に該当し、被告が横山に免許を付与することは許されない。

(4) 被告が横山に酒販免許を付与したのは、平成二年七月四日であるが、横山が営業を開始しないまま平成四年七月四日を経過した場合、酒税法一四条三号により横山の免許は取り消されるべきものとなる。しかるに、横山は、平成四年七月一日から三日間、小野から賃借した前記店舗で酒類の販売を行ったのみで、これを閉鎖し、平成四年一一月に至るまで、右店舗での酒類販売を行っていない。よって、横山の免許は取り消されるべきである。

(5) 免許取扱要領は、酒販免許の申請書は、被告において記入漏れ、添付書類の不備を確認の上受理し、不備があれば、期限を定めて補正させることとし、右の添付書類としては、実務上、

<1> 販売設備状況書(設備につき譲受又は賃貸借が行われるときは、その契約書の謄本、設備の新設が行われるときは 請負契約書及び見積書の謄本)

<2> 販売場の有無を示す書類(申請者が販売場を有する場合は、その所在地、名称、免許年月日、免許の条件、免許付与に際しての誓約事項及び最近一年間の月別販売数量等の詳細)

<3> 申請販売場の土地及び建物の登記簿謄本(申請者が所有者でない場合には、このほかに賃貸借契約書の謄本)

<4> 申請販売場の敷地を明記した法務局備付けの公図の写し

<5> 建物等の配置図及び申請販売場周辺の見取図等を申請者に提出させる取扱となっている。

ところが、横山は、土地登記簿謄本を申請書に添付せず、また、公図によっては申請販売場の位置を特定できないとして、これに代えて求積図を提出しているが、求積図は、単に公図の証明力を補強する手段にすぎないから、これをもって公図の提出に代えうるものではない。

横山の申請販売場は同人の所有に属するものではなく、また、横山が小野から賃借した建物は、酒類販売施設がないことから、申請に際し、敷地の利用関係を示す賃貸借契約書及び販売施設取得に関する契約書の謄本の添付を要すべきところ、横山の申請書には、これらの書面が添付されていない。

したがって、被告が横山の申請を受理したことには、手続上重大な瑕疵がある。

(6) 以上のように、被告の横山に対する免許付与には重大な瑕疵があり、無効又は取り消されるべきものであるから、本件販売場が横山の申請販売場と至近距離にあるとしても、酒税法一〇条一一号には該当したい。

(二) 本件申請と需給の均衡

(1) 本件販売場の存する松田町は、約三八〇世帯約一七〇〇人が居住する住宅地域で、付近に小田急電鉄、東日本旅客鉄道の駅やバスターミナルがあり、近隣の大井町、開成町、中井町からの通勤客等も数多い人口密集地域であること、本件販売場は、いわゆるコンビニエンスストアの形態により多様な商品の販売を予定しており、酒類を専門に販売するものではないことからすれば、至近距離に同業者が存したとしても、需給の均衡を被るおそれはない。

(2) 本件販売場は、小田急電鉄小田原線を挟んでその南側に、横山商店はその北側にそれぞれ位置し、踏切で遮られていることから、横山商店は、線路北側の足柄上郡松田町松田惣領字観音前に居住する住民が利用するのに対し、本件販売場は、線路南側の同所河内、中丸、中町屋、沢尻に居住する住民約六三〇世帯が利用することになる。また、横山商店の西側には、県道小田原松田線を隔てて小田急電鉄新松田駅の出口があるが、右県道の歩道は、新松田駅側にしか敷設されていないため、線路南側に居住する住民が新松田駅で下車した場合、反対側の横山商店に立ち寄ることはない。このように、両者は利用客が異なるから、横山に対する酒販免許の効力は別としても、需給の均衡を害するおそれはない。

第三争点に対する判断

一  酒販免許制度の合憲性について

1  酒税法は、同法九条一項により酒販売業を免許制とし、同法一〇条に該当する事由が存する場合に免許を与えないとしているので、これが、職業活動の自由を保障した憲法二二条一項に違反しないかどうかが問題となる。そこで、これにつき判断するに、憲法二二条一項が保障する職業活動の自由に対する公共の福祉による制約が認められるかどうかは、規制の目的、必要性、内容、制限の程度等を総合的に考慮した上で決せられるべきである。そして、国民の租税負担のあり方をどのように定めるかは、財政、経済、国民生活の現状等の国政全般に関する正確な資料に基づく専門的・技術的判断を要するから、租税法の内容については、これらの基礎資料を有する立法府の政策的・技術的な裁量に委ねられているというべきであり、租税の適正かつ確実な賦課徴収という財政目的のため一定の職業を許可制により規制することも、これが必要かつ合理的であり、立法府に委ねられた政策的・技術的な裁量の範囲を逸脱するものでない限りは、公共の福祉による制約に当たるものとして、憲法二二条一項に違反するものとはいえないというべきである。

酒税法は、酒類等の製造及びその販売業について免許制を採用している(同法七条ないし一〇条)が、酒税は沿革的に税収全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であり、酒税法が、納税義務者である酒類製造業者が酒類の販売代金を確実に回収し、酒税の消費者への円滑な転嫁を図るため、これを阻害するおそれのある販売業者を免許制により酒類の流通過程から排除しようとすることは、必要かつ合理的な措置として、立法府に委ねられた裁量の範囲内にあるものというべきである。

もっとも、証拠(乙一七号証の一、二)によれば、酒税の税収全体に占める割合は、かつては一〇パーセントを超え、税目で二番目ないし三番目の地位を占めていたが、昭和六一年度には五パーセントを割り、平成元年度以降は三パーセント台に落ち込んでいることが認められる。しかし、証拠(乙一八号証)によれば、酒類の酒税等負担率はなお高い数値を示し、平成六年一月における小売価格に占める酒税額の割合は、ビールが四〇パーセント以上、ウイスキーが約三六パーセントないし約五〇パーセントに及んでいることが認められる。このように、酒税の税収全体に占める割合は相対的に低下しているものの、その税率は依然高い数値を示していることからすれば、立法当時からの社会状況及び租税体系の変化を考慮しても、酒税の確実な賦課徴収のための前記仕組みがその必要性、合理性を失ったとまではいえない。

2  原告は、消費税の導入により、酒販免許制度を存続させる理由がなくなったと主張する。しかし、消費税は、課税対象が国内のほとんどの物品に及び、納税義務者は製造、卸、小売、サービス等の各取引段階の事業者等とされ(消費税法五条一項、二項)、税率もすべての物品につき一律に三パーセントとされる(消費税法二九条)のに対し、酒税は、課税対象が酒類のみであり、納税義務者は酒類製造業者等に限られ(酒税法六条一項、二項)、税率も極めて高率である(同法二二条)。このように、消費税は、取引の多段階において、あらゆる事業者に対し広く薄く課税する点で、特定の物品製造者に高率の課税をする酒税とは異なるから、消費税導入後といえども、酒販業者の経営の安定を通じて消費者への酒税の円滑な転嫁をはかり酒類製造業者の負担を軽減するという、前記酒販免許制度の存在意義はなお失われていないというべきである。

3  以上のことから、酒税法九条一項の定める酒販免許制度は憲法二二条一項に違反するものとはいえない。

二  酒税法一〇条一一号による規制の必要性・合理性について

1  職業活動の自由に対する規制措置は、酒販免許制度の下における具体的な免許基準との関係でも、その必要性・合理性が認められなければならない。そして、酒販業者の経営の安定を図るという酒販免許制度の目的からすれば、酒税法一〇条一一号が、過当競争の結果、酒販業者の経営が不安定化することを防止するため、需給の均衡を維持するという観点から、一定の場合に免許を与えないことができるとしていることには、それなりの合理性があるというべきである。

証拠(乙二号証)によれば、免許取扱要領は、酒税法一〇条一一号の需給調整上の要件の認定を客観的かつ公平に行うため具体的な適用基準を定め、酒類の小売販売地域について、<1>東京都の特別区、人口三〇万人以上の市、若しくはこれらに準ずる市町村(可住地人口密度が一キロ平方メートル当たり三〇〇〇人以上の市町村をいう。)又はこれらの一部の販売地域をA地域、、<2>A地域以外の市、若しくはこれに準ずる市町村(可住地人口密度が一平方キロメートル当たり一二〇〇人以上三〇〇〇人未満の町村をいう。)又はこれらの一部の販売地域をB地域、<3>A地域及びB地域のいずれにも該当しない販売地域をC地域とする格付けを行い、一般酒類小売販売業免許の場所的要件として、申請販売場と既存の販売場との距離は、A地域及びB地域については概ね一〇〇メートル、C地域については概ね一五〇メートル以上要するとして、平成元年六月一〇日から実施されていることが認められる。

このように、可住地人口密度に応じた距離制限を設けることは、特定の小売販売地域における酒類の需要には限界があり、当該地域に酒販業者が濫立した場合、過当競争により経営の不安定化をもたらすことが予想されることに照らして、それなりの合理性があるものと認められる。

2  原告は、近時、酒類の販売形態が多様化した結果、右のような右距離制限はその合理性を欠くに至った旨主張する。そして、証拠(甲一九号証、二一号証、二二号証、二四ないし二六号証、二九号証の一、二)によれば、平成三年一月現在、全国のスーパーマーケット等約一万三七〇〇店のうち、酒販免許取得店は約二〇〇〇店あること、平成五年における全国のコンビニエンスストア四万三五一〇店のうち酒販免許取得店は、一万三五七五店に及び、同年におけるコンビニエンスストア、酒類ディスカウント店の業態別シェアはそれぞれ約一二パーセント、なお、スーパーマーケットのそれは約四パーセントと推定されること、これらの店舗は、経費削減による低価格化、営業の長時間化、日常必需品の品揃えの豊富さなど、従来の酒販専門店とは異なる特色を有することが認められる。しかしながら、このような店舗の進出の結果、酒類の購入が必ずしも消費者の居住地域の近辺に限られなくなるなど、その動向にある程度の影響を及ぼしていることは明らかであるとしても、右証拠によれば、一般酒販店の業態別シェアはなお約六〇パーセント(そのほかに業務用約一二パーセント)を占めていることが認められることなどからしても、右のことから直ちに、小売販売地域ごとの酒類の需要の限界が解消されるものとはいえず、このような地域ごとの需要の限界は、酒販業者がその業態に応じた営業努力を行うことによっても、にわかに克服し難いものがあるといえるから、前記距離基準は、なおその必要性、合理性を失っていないというべきである。

なお、証拠(甲二三号証の一ないし二二、三〇号証、原告代表者、弁論の全趣旨)によれば、平成三年七月現在、小田原市東町、浜町、南町及び本町のうちの六箇所の地域において、それぞれ半径約五〇メートルないし約一〇〇メートルの範囲内に複数の酒販店が併存することが認められる。しかし、右各証拠によれば、これらの店舗の酒販免許取得時期は、いずれも免許取扱要領が実施される相当以前であり、これらの店舗につき前記距離基準の適用がないことは明らかである。そして、特定の小売販売地域について右のような実態が存するからといって、それだけで直ちに、現行の距離基準がその必要性、合理性を欠くものであるということはできない。

三  横山に対する酒販免許の効力について

1  横山の販売場の特定について

原告は、横山に対する酒販免許通知(乙一〇号証の一、二)において、申請販売場のうち足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二の土地が特定されていない旨主張する。しかし、証拠(乙三号証の一、二、四号証ないし七号証、一〇号証の一、二、一一号証ないし一三号証、証人沓沢清、同藤崎英雄)によれば、以下の事実が認められる。

横山は、平成二年八月ころ、酒販免許申請の相談のため小田原税務署を訪れたが、その際、担当職員の藤崎英雄(以下「藤崎」という。)に対し、申請販売場は、東日本旅客鉄道御殿場線、小田急電鉄小田原線及び県道小田原松田線に囲まれたほぼ三角形状の土地で、ゲームセンターの建物が所在する土地であるが、その付近は鉄道敷地等の地番、所有関係が錯綜しているため、公図上、その所在地を確認し得ない旨申し述べた。そこで、藤崎は、横山に、公図の写しに代えて、右所在地を確認しうる証明力のある図面を提出するよう示唆した。横山は、その後、公図に代えて土地家屋調査士に測量の上、作成させた申請販売場の求積図・境界査定図(乙四号証、以下「求積図」という。)を持参して説明し、同年一〇月一日、免許申請をしたが、申請書の土地の表示が地番表示でなく住居表示となっており、また、申請書に図面を添付していなかったので、藤崎は、求積図に申請販売場部分を黒い枠で明示するようなどと指導した。横山は、その後、免許付与までに、申請書に右の旨を明示した図面(求積図の一部を拡大複写した図面)を添付し(乙三号証の二)、申請書の「販売場の所在地及び名称」を「足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二外三筆」(詳細は別紙図面のとおり)」と訂正して、申請を補正した。藤崎は、横山から説明を受け、登記簿謄本、税務署備付けの住宅明細地図と照合するなどして調査した結果、足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番六の土地が前記一二一五番二の土地に合筆されており、これが求積図上「1215-6の内」と表示される土地に該当すること、そして、申請販売場の土地は、足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二、同所一三五九番三、同町松田惣領字観音前三三九二番二及び無番地の計四筆であることを確認した。なお、藤崎は、平成二年一二月末ころ、現地に赴き、前記ゲームセンターのあるという右販売場の所在地を確認し、藤崎の後任者であり、本件申請を担当した沓沢清も、前記住宅明細地図と、横山作成の申請書添付の図面を照合し、改めて右販売場の所在地を確認した。

以上のことからすれば、横山の申請販売場の所在地は、右の足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二ほか三筆であるといえ、現地においても特定しているから、その特定に欠けるところはないといえる。

2  横山の販売場の権利関係について

原告は、横山の申請販売場は鉄道用地であって、酒類の販売場として使用し得ないものであるから、被告がこのような土地を販売場とする免許を付与したことには重大な瑕疵がある旨主張する。そして、証拠(甲六号証の一ないし三、乙五ないし七号証)によれば、横山の申請販売場のうち、足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一二一五番二の土地は国鉄清算事業団の、同所一三五九番三及び三三九二番二の各土地は旧日本国有鉄道の所有する土地で、その地目はいずれも鉄道用地となっていることが認められる。しかしながら、申請販売場の敷地が申請者の所有に属しない鉄道用地であるとしても、およそ販売場の開設が不可能であるとはいえず、申請者が右土地につき利用権を取得することは可能であるから、このような土地を販売場とする免許を付与したことに、重大な瑕疵があったとはいえない。

3  横山商店と申請販売場の位置関係について

原告は、横山商店の敷地は、現公図上、足柄上郡松田町松田惣領字張間田下一一六二番九の土地に該当し、横山の申請販売場である前記一二一五番二ほか三筆の土地とはかけ離れた位置にあるから、被告がこれらの土地を販売場とする免許を付与したことに重大な瑕疵がある旨主張する。そして証拠(甲三号証、四号証の一ないし四、五号証の一ないし三、三五ないし三七号証、三八号証の一、二、原告代表者)によれば、公図を前提とする限り、原告の右主張が裏付けられるかのようである。

しかしながら、一般的に公図の記載と現地の地番とが一致しないことはしばしば見られるところであって、証拠(証人藤崎英雄、原告代表者、弁論の全趣旨)によれば、本件においてもそのような形跡が窺われ、右の公図が正しいものであることを裏付ける確かな証拠はない。そして、前記認定のとおり、土地家屋調査士の作成にかかる求積図の図面と地番に基づき、しかも、その所在地を現地で確認してされた横山の申請販売場に対する酒販免許の付与は、仮にその地番の表示の一部に誤りがあったとしても(なお、前記各証拠によっても、横山商店の一部は、横山の申請販売場の一つである無番地の土地の一部と重なることが認められる。)、直ちにその法律上の効力を左右するには至らないというべきである。原告の主張は理由がない。

なお、証拠(乙三号証の一、二、一〇号証の一、二、一一ないし一三号証、証人沓沢清、同藤崎英雄)によれば、本件販売場の入口の中央から横山商店の入口の中央までを通路に沿って現実に測定すると、約四六メートルであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

4  横山商店の敷地の権利関係について

また、原告は、横山が小野から店舗用に賃借している建物の敷地は、現在、東京旅客鉄道が管理し、小野に対し右敷地の明渡請求中であるから、本件申請は酒税法一〇条一〇号の「経営の基礎が薄弱」な場合に当たり、不許可とすべき場合に該当する旨主張する。そして、証拠(証人藤崎英雄、原告代表者、弁論の全趣旨)によれば、右敷地は、横山の免許申請当時、東海旅客鉄道が所有し、小野は右会社から右敷地の利用権を取得していなかったことが認められるが、当時、小野が右会社から立退請求を受けていたなど、右土地を店舗の敷地として使用することが困難であった等の事情は認められないから、横山の経営の基礎が薄弱であるとはいえない。また、仮に、横山の経営の基礎が薄弱であるとしても、酒税法一〇条は、右の場合に免許を与えないことができる旨規定するにとどまるから、横山の免許が当然に無効となるものではない。

5  横山の免許取得後の営業状況

原告は、横山が免許取得後、一年を過ぎても、その販売場で営業を行っておらず、横山の免許は取り消されるべきである旨主張するが、証拠(甲二号証、乙八号証、一一号証、一三号証、証人沓沢清、同藤崎英雄)によれば、以下の事実が認められる。

横山は小野から足柄上郡松田町松田惣領字観音前一一六二番地五先の建物を店舗用に賃借していたが、前記認定のとおり、免許申請時、右建物の現況はゲームセンターであり、横山は右建物内に酒類の販売施設及び設備を有していなかった。しかし、小野が右建物を改築する予定であったことから、横山は、被告に対し、免許付与時である平成三年七月四日から一年以内に右販売施設及び設備を取得する旨の誓約書を提出した。被告は、横山が右誓約書に従い販売場を開設しなかった場合、免許の取消申請を促す予定で、原告の免許申請についての審査を留保していたところ、横山は、平成四年七月一日、右建物内に酒類を陳列し、店頭に自動販売機を設置するなどして販売を開始した。

なお、横山は、現在、改築された建物内で営業を継続している。

以上のとおり、横山は、免許取得時から二年が経過する前にその販売場で営業を開始していたことが認められる。

原告は、横山が同年七月一日から三日間、形だけ営業を行った後、店舗を閉鎖し、同年一一月に営業を再開するまで右店舗での営業をしていないと主張するが、これを認めるに足りる適確な証拠はない。また、酒税法一四条三号は、二年以上引き続き酒類の販売業をしない場合に、税務署長が免許を取り消すことができる旨規定するにとどまり、右の場合に免許を取り消すかどうかは税務署長の裁量に委ねられているというべきであるから、原告の主張によっても、横山の免許が直ちに無効となるものではない。よって、原告の主張は理由がない。

6  免許申請添付書類の不備について

原告は、横山が申請書の添付書類として土地の登記簿謄本及び公図を提出しなかったことが申請手続上の瑕疵に当たる旨主張し、証拠(甲三二号証、四一号証、乙五ないし七号証、証人藤崎英雄)によれば、実務上、申請書には、登記簿謄本、申請販売場の敷地を明記した公図写しを添付する扱いがされていること、ところが、横山は、申請時には、土地登記簿謄本を提出しておらず、平成三年五月二八日以降免許付与時までに追完したことが認められ、なお、前記認定のとおり、申請時に公図写しを提出しなかったことが明らかである。しかしながら、前記認定のとおり、横山の申請販売場が特定されていたと認められることからすれば、土地の登記簿謄本を後日、追完させたとしても、直ちに手続上の瑕疵があるとまではいえず、また、被告は、公図によっては横山の申請販売場の所在地を確認し得なかったため、これに代えて求積図を提出させたものであるが、このような場合に、公図の提出を求めなかったことが、手続上の瑕疵に当たるとはいえない。

また、証拠(甲三二号証、四一号証、証人藤崎英雄、原告代表者)によれば、申請者が酒類の販売設備を新設する場合、申請書に請負契約書等を添付する取扱いがされているが、横山は、右書面を提出していないことが認められる。しかし、横山が一年以内に右設備及び施設を取得する旨の誓約書を提出したことは前記認定のとおりであり、証拠(乙一三号証、証人藤崎英雄)によれば、被告は、前記ゲームセンターが改築予定であったため、横山の店舗開設までになお時間を要する見込みであったことから、右宣誓書及び改築後の事業のもくろみ書の提出をもって足りるとしたものと認められ、被告の右取扱いが不当であるとはいえない。

また、原告は、横山が店舗の敷地について賃貸借契約書を提出していないことが手続上の瑕疵に当たるとも主張し、証拠(甲三二号証、四一号証)によれば、申請者が敷地所有者でない場合、敷地の賃貸借契約書を添付する取扱いがされていることが認められる。しかしながら、横山の免許申請時に小野が敷地所有者から明渡請求を受けていたなどの事情が認められないことは前記認定のとおりであり、また、証拠(乙八号証、一三号証、証人藤崎英雄)によれば、横山は申請の際、小野との店舗賃貸借契約書を提出していること、免許申請時には、右敷地の所有関係が必ずしも明らかでなかったことが認められるから、被告の前記取扱いが直ちに不当であるとはいえない。

7  以上のとおり、被告の横山に対する酒販免許の付与手続に必ずしも適切ではないところがあったとしても、その手続に重大な瑕疵があるとはいえないから、これを前提に、被告が、本件申請が免許取扱要領の距離基準に抵触するとして酒税法一〇条一一号を適用したことは適法である。

8  なお、原告は、本件販売場と横山商店は、利用客が異なるから、酒税法一〇条一一号の需給の均衡を害するおそれはないとも主張する。

そして、証拠(甲一八号証、二八号証、乙一四号証、原告代表者)によれば、本件販売場付近は、小田急電鉄小田原線を境に、北側が足柄上郡松田町松田惣領字観音前、南側が同所河内、中丸、中町屋、沢尻の各地区となっており、線路沿いの北側に横山商店が、南側に本件販売場が位置し、横山商店の西側には、県道小田原松田線を隔てて小田急電鉄新松田駅の出口が隣接していることが認められる。しかし、前記認定のとおり横山商店と本件販売場の間隔は約四六メートルに過ぎないことや右新松田駅の位置からすれば、線路を越えて反対側の店舗に往来する利用客が僅少であるとはいえず、線路南側に居住する住民が、新松田駅で下車した後、県道を横断して横山商店に立ち寄ることも充分予想されるから、横山商店と本件販売場が前記のような位置関係にあるからといって、その利用客が全く異なり、その結果、酒税法一〇条一一号の需給の均衡を害するおそれがないとはいえない。この認定に反する甲二八号証、原告代表者の供述は、にわかに採用することができない。

また、原告の店舗が原告主張のような通勤客等の多い地域にあり、しかも、コンビニエンスストアの形態による多様な商品の販売を予定していて、売上全体に占める酒類の割合が必ずしも大きいとはいえないとしても、それらのことから直ちに、至近距離に存する酒販店舗との過当競争を生じるおそれがないとはいえない。

したがって、原告の主張はいずれも理由がない。

四  結論

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 裁判官 近藤裕之)

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